書き初め
校 長 山田 耕司
新年あけましておめでとうございます。
本年は福岡海星小学校の新しい1ページが刻まれる年となります。どうぞよろしくお願いいたします。
書に親しむ
○「墨の香り」が好きです。子どもの頃、書写の時間は、他の授業とは違う香りのする時間でした。その中で静かに落ち着いて、一文字一文字を書きます。墨をする所作がまたいいのです。ゆっくりゆっくり前後に手を動かします。力加減が絶妙です。硯の「海」と「陸」を行ったり来たりします。そして書の世界に入る準備が徐々に整っていきます。
○ 「どうして巻紙を手に持ったまま書くの?」 祖父の側に座った2年生の私が、その手元を見つめています。「おじいちゃん、お侍さんみたいだね。」傍らに大きな硯に大きな墨が置いてあります。「これ大きいね。」「うん、この硯は中国で作られたもんだよ。江戸時代から我が家にある。この墨も随分古いね。」「坊、嗅いでごらん。どうだ。」
祖父は小笠原流の師範で、書や生け花、茶道に造詣深い方でした。手先が器用で木工細工にも長けていました。
○ 母もその影響下、手紙や日記は毛筆でした。和紙便せんに手紙を書いていました。その文字を美しいと思いました。母の硯は細身でした。墨も細長いものでした。香りがまた違いました。「この墨は奈良で作られるのよ。」「耕司も筆が好きになるといいね。」墨にもいろいろ香りがあるんだなあ。
私は筆を持つことに、字を丁寧にうまく書くことに、味のある字を書くことに強い興味を抱くようになりました。
年賀状の季節
○ 11月中旬、年賀状の季節がやってきました。さあ、待ちに待った私の「書き初め」です。筆の準備を始めます。表書きは毛筆で書くのが習慣です。
裏の本文は4種類用意します。学校関係・児童生徒向け・本学院職員・家族関係。ペンで一文を添えます。
墨の香りを嗅ぎながら、「すうっ」「ぴたっ」「ぐるうり」と子どものように身体感覚として身についている動きを擬態語にしながら表しています。言葉を唱えながら書くと、書くテンポや細かな筆の動きがスムーズになります。
○ 毎年、年賀状を400枚を書き上げます。望まれれば家族の表書きにも協力します。一枚一枚、先様の顔やエピソードを思い浮かべながら筆を進めていきます。何とも静寂で心地よい時間です。
孫がやって来た
○ 冬休みの宿題を持って小学4年生の双子がやって来ました。「おじいちゃま、作文とお習字をみてください。」 残念ながら墨は使いません。墨汁です。「とめ」「はらい」「はね」が肝心です。それにはリズムが大切です。
○ 体を柔らかくします。「はい、体操をしますよ」「ええ」「体が柔らかい方がのびのびした字が書けますよ」。「では筆を持ってください」「しんにょうの最後の『はらい』は、白鳥が『すうっ』とかるくとびたつよーの気持ちだよ」。
○ 筆を整えてください。曲がったままでは書きにくいよ。習字では整えることが重要です。道具は整っていますか。姿勢は整っていますか。服装は整っていますか。心は整っていますか。はい、練習をしましょう。そう、のびのびね。
海星の書写の時間
○ 今の生活は、手や指、手首を細かく調整しながら動かすという機会が格段に減り、身体感覚自体が変化しているように思われます。書写の時間に言葉を唱えながら手を動かしたり、墨の香りを嗅いだり、さまざまな文章にふれたりしながら書くことを楽しんでもらいたいと思います。それも専門家の指導で実現したいと思います。
○ 本校では1年生から毛筆の書写の時間が始まります。全国的にも稀有なことです。 指導者は高校の書道科立和田典子先生です。1月10日には低学年、11日12日には中学年高学年の新年揮毫会があります。みんなのびのびと自分の字が書けるといいですね。
○ 学級の前面黒板の上に「わたしがあなたたちを愛したようにあなたたちも互いに愛し合いなさい」という聖句(ヨハネ13章34節)が掲げてあります。
いつも子どもたちに呼びかけています。この句はかつて本校に勤められたシスター島村晢子先生が、子どもたちの実態を間近に見て選ばれたものです。書は立和田先生です。