校長室からMessage

対話型AIの時代

校長 山田 耕司

模索する各国の大学

チャットGPTなどの生成AIは、依頼に応じて自然な文章を瞬時に作成できます。「論文を書く際に数十時間かけていた情報収集、アウトラインの構想、文章作成までが数分で完了できます。何ができるのかを知ってしまった以上禁じるのは難しいです。」(慶応大女子学生)。これを使えば小学生も読書感想文を数分で完了します。本を読まなくても書けるのです。AIに書かせた作文や論文を提出されても教師は見ぬけません。

〇 名古屋大学の総長杉山直先生は、3月の卒業式の祝辞で「チャットGPTを使ってリポートを書いた人もいるのでは。これは剽窃(ひょうせつ・盗み取って自分のものとして発表する)、盗用の疑いもあり、大学教育の危機と言える」と述べました。

〇 この対応に各国の大学や研究機関が割れています。
パリ政治学院や英国ケンブリッジ大学では、AIの使用を原則禁じています。一方、米国や日本では悪用への懸念は示しつつも、高度の学習に生かせるとしています。これから悪用を防止するために、どんな制度やシステムを見出すのでしょう?

どんな学びを

〇 一人ひとりに培いたい表現力や創造力は今後どのようにして醸成していけばいいのでしょう。AI時代の後戻りはできません。AIの精度は「ドローンの進化」(兵器や空飛ぶ車など)に見られるように日々向上するでしょう。こうなってきますと、これからの教育は結果だけではなく学ぶ過程がさらに重要視されます。

〇 「なにを学んだか」だけではなく「いかに学んだか」がさらに注目されるでしょう。それらの学びは、人が生きる基礎基本である小学校教育で刻み込まれておく必然があるでしょう。

海星小学校では

○ カトリック校としてのよさの一つは、日常生活の中で「隣人愛」を醸成することです。いつ自分の目の前に「困っている人」が現れるか分かりません。その時何か行動できる人でありたいと思います。それをイエスさまが喜ばれるから人は実行します。「よきサマリア人のたとえ」の教えを思い出します。

○ 例えば海星小のクリスマス募金は、海星小創立者マリアの宣教者フランシスコ修道会のシスター方が活動される施設に送られます。今までの送金先はマダガスカル島の病院や南アフリカのエイズ家族のこども養護施設、コンゴの小学校、パキスタンの病院と多岐に渡ります。
 確かに、そこでシスター方が神さまの招きに応えて黙々と活動をしておられます。子どもたちの心温まるコインがその活動をちょっぴり支えます。

魔女の宅急便

〇 国際アンデルセン賞2018受賞の角野栄子さんのお話です。角野さんは「魔女の宅急便」で著名な日本を代表する童話作家です。

「子どもが幼いときに良質の物語に出会うことがどんなに大切か」を話します。現在鎌倉で100人の子どもを対象に定期読書会を開いております。私は母が早世したので父子家庭で育ちました。戦時中、本のない時代、父が3人の子に語る物語を楽しみに成長しました。すべての人が物語を読むところから人生は出発しています。ある時文科省の会合で「児童文学作品を100冊読んでいる人を教員に採用して下さい」と発言しました。「本を読む子どもたちが少なくなった」と言われますが、子どもは本を読む素敵な大人に出会っていないのです。今思えば父の語る口調のリズムが角野栄子の文章のリズムになっています。父の言葉が音が私の中に蓄積されています。若い頃2年ほどブラジルに移民をしていました。私の言葉・文化の先生は安アパートに同居する9歳のスペイン系の男の子でした。町中を案内してもらいながら言葉を表現を文化を習い(倣い)ました。音を大事にしないとCommunicationは成り立ちません。伝わりません。

 小1のとき、声を出して教科書を読んでいたら父から誉められした。「いいねえ」。自分で最後まで読まなければ「読書」ではありません。好きな本は見つかりません。「読み聞かせ」を豊かに体験し「読書」にのめり込む、楽しい人生を経験して下さい。

読解力

○ 私は角野さんから「おはなしや」と「海星100冊」の教育活動をすすめる福岡海星小学校の応援歌を頂いた気分でした。

〇 算数の学習で小学3年生になりますと、「算数嫌い」が増加します。「計算問題は楽しいけれど文章題は苦手、嫌い」と子どもは言います。文章は読めるけど、文章を正確に理解する力「読解力」が不十分なのです。

〇 新聞社と協力して「NIE教育」に熱心に取り組む学校があります。NIE(Newspaper in Education)は、学校で新聞を教材として活用することです。1930年代にアメリカで始まり、日本では85年、静岡で開かれた新聞大会で提唱されました。その後、教育界と新聞界が協力し、社会性豊かな青少年の育成や活字文化と民主主義社会の発展などを目的に掲げて、全国で展開しています。この教育は新聞に書かれた事実を正確に理解する力を醸成することができますから「読解力」の涵養に役立ちます。小学1年生から新聞に親しませましょう。
小学生新聞もあります。

○ AI時代だからこそ、文書やメールを読んできちんと実行できる「読解力」を身につける必要があります。論理性や構成力の基礎が「読解力」です。その上に創造力(アイディア)が宿ります。

〇 「読解力」を醸成するためにご家庭で実行していただきたいことがあります。
 国語の宿題で「本読み5回」が出ました。子どもは「お母さん聞いて」と大きな声で読みます。読み終えました。「どう」得意そうに評価を求めます。そこで「大きな声でとてもよかったよ」とほめていただいた後に、「そのとき主人公のごん(4年ごんぎつね)はどんな気持ちだったと思う」と聴いてください。「なるほど。Bちゃんはそう考えたんだね」(文中のことばを手がかりにことばを根拠に自分の考えを伝えることができる子ども)。この継続が子どもを育てます。

森鴎外

〇 明治時代の文豪森鴎外の「小倉日記」に次のような記述があります。
「田圃間を過ぎて本妙寺に至る。蓋ある車をとめて、銭を乞う廃人二、三をみる。既にして寺に近づけば乞食漸く多く、その中には癩人最も多し。寺は丘上にあり・・・(中略)。カトリック『フランチスカアネル』のフランス女子数人の経営に成る。医学あるものにあらずといえども、間間に薬を投ず。その功績堪えたるものあり。」
 これは中尾丸診療所(現熊本市西区島崎)で政府も見限った病人方の世話をする5人のシスター方の姿です。

〇 「小倉日記」にある「フランチスカアネル」は「フランシスカン」のことで「フランシスコ会修道者」を意味します。そうです。私たち福岡海星小学校をつくられた「マリアの宣教者フランシスコ修道会」のことです。

 海星小のルーツそして精神

〇 1897年、マリアの宣教者フランシスコ修道会(本部ローマ)創立者マリ・ド・ラ・パシオンは、長崎教区のクザン司教から、熊本・筑後地区で宣教活動に取り組んでいるコール神父(フランス人) のハンセン氏病事業に会員派遣の要請を受けました。

〇 この年はフランシスコ会が日本26聖人殉教者300年祭(1597-1897)を祝っておりました。創立者はこの要請を、その生き方を修道会が模範とする聖フランシスコ(12世紀のイタリア・アシジの聖人。イタリアでキリストの再来と尊敬されている)の愛の招きと受け止め、長い迫害(260年間続いた潜伏キリシタン時代)でフランシスコ会修道士が消えてしまった日本へ、多くの派遣希望者の中から5名の会員(シスター)を選び派遣しました。

〇 そして、「隣人愛」に生きる後継者を育てるためにここ老司の丘に福岡海星女子学院附属小学校が開かれました。今から56年前のことです。

 AIの時代になっても大切な生き方があります。
 5月は「マリアさまの月」です。5月13日土曜日、学院のルルドで「マリア様のミサ」が行われます。
マリア様の青いマントが海星の空をくるみます。

                                 (了)

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