校長室からMessage

平和を考える海星っ子

校 長   山田 耕司

平和を考えるつどい

○ 6月19日、福岡大空襲から78年目の日、本校でも「平和を考えるつどい」を実施しました。5年で社会科を担当する上田先生の話です。
 1945年6月19日夜11時過ぎ、グアムやサイパンから飛び立ったB-29爆撃機239機が福岡市に飛来、今の中央区や博多区、港湾部を中心に1350トンの焼夷弾を落としました。
死者・不明者約1200人罹災者6万人の大きな被害でその殆どは一般市民でした。

○ スライドを交えての話の後、アシジのフランシスコの「平和を求める祈り」を全員で唱えました。

「神よ、わたしをあなたの平和の道具としてお使いください憎しみのあるところに愛を。争いのあるところにゆるしを。…」(詳細は児童手帳15ページをごらんください)
 そして教室に戻り、今日の話の内容を担任より学年に応じて解説を受け、「聴き合い活動」をして、一人ひとり「みことば作文」を書き自分の心の内を表しました。

戦争の歴史

○ 人類の文献に見る戦争は、3500年間で1万回だそうです最初の戦争の記録はB.C.15世紀のエジプトとカナン(現パレスチナ)によるメギドの戦いです。地図によるとメギドはキリストの暮らしたナザレの近くにあります。

○ 統計によると戦争による死者数は15世紀より急激に増加します。中でも死亡率が高いのが17世紀の三十年戦争と20世紀の第二次世界大戦です。

○ 日本では戦国時代や幕末維新期に大きな戦争がありました。幕末維新の戦争にはアメリカの南北戦争で使用された銃器や大砲が輸出され、兵器として提供されたことが記録に残ります。戦争は繰り返します。

○ 1960年代に発掘されたアフリカ・スーダンのジェベルサハバ遺跡(1300年前)から61体の人骨のうち60%に槍や矢じりの傷跡が確認されました。これは先史時代に跳び道具で集団殺戮が行われていた証拠です。

○ 人間は次々に新たな技術を生み出す特別な能力によって生物界の生存競争に勝ちぬき生き延びることができました。遠くから安全に相手を狙い撃ちできる飛び道具の発明は、人間を狩られる立場から狩る立場にかえました。自らの集団のために食料をより簡単に手に入れることが出来るようになりました。
そして、この道具が人間同士の大量殺戮に使われるようになりました。それは異なる集団間の食料争いが原因でした。

絆のホルモン

○ 人間は大きなリスクを冒してまで、なぜ戦争の道へ進んでしまうのでしょうか? 毎日ウクライナの報道を目にしながら考え込んでしまいます。
 現代科学で注目される人間の脳の中、そこで分泌されるオキシトシンというホルモンがあるそうです。出産や授乳の際に多く分泌されます。母親が我が子をいとおしく愛する行為と共に多量に分泌されます。他に愛情や友情を感じる場合にも同じ現象が起こります。このホルモンは共感性や協力性を生み出します。血縁や信頼感は勿論、血縁を超えた集団での協力も生みます。まさに絆を結ぶホルモンです。

○ しかし、このホルモンは、時には攻撃性にも関わるそうです。共感性や協力性ゆえに守るべき存在とそうでない存在を「線引き」するのです。例えば出産したネズミが乳児を守るために他の近寄るネズミを攻撃します。人はことによっては仲間を守りたいために自国民と外国人の「線引き」をします。アイデンティティが強まると集団の仲間意識が強くなるのです。仲間のために尽くす。命を投げ出す献身ぶりを示す人間の姿です。私はスピルバーグの映画「プライベート・ライアン」を思い出しました。「暴走する仲間意識」が戦争につながります。

戦争とプロパガンダ

○ 文献によると、15世紀以降3000回の戦争が行われています。最も死亡率が高かったのは三十年戦争(1618年~48年)だそうです。宗教改革の後、カトリックとプロテスタントの宗教戦争が起こります。それはヨーロッパの多くの国々を巻き込んで国際戦争に拡大します。結果、死者は800万人となり、参加国すべてが大きな負債を担いました。

その背景には活版印刷機の発明でマスメディアが起こったことがありました。両陣営が大量のビラを作りまき続けたのです。仲間を守るために敵を攻撃します。敵への恐怖心、仲間への結束心を、マスメディアを使って煽り立てました。                                                                 

○ このビラは「プロパガンダ」と呼ばれました。ラテン語で「種を播く」の意味です。当初は夫々の教派の主旨を伝えることが目的でしたが、ついには他者を敵とみなし攻撃する「政治的宣伝性」のものとなりました。現在では後者の意味で使用しますね。三十年戦争を深刻化させたのはこの「プロパガンダ」でした。

○ 人間には仲間を助けようとする特性があります。親には子を守ろうとする防衛本能が沸き上がり、それらが攻撃性を強めます。さらに相手を人間でないと見なすことで、攻撃性を正当化する傾向があります。相手を「非道的で仲間を脅かす存在だ」と思いこむことが、攻撃性を最もエスカレートさせます。私たちは今、テレビの画面でそれを見、体験する毎日です。

○ 三十年戦争の活版印刷、第二次世界大戦の映画・ラジオ新聞、現代のインターネット・SNS。これらが爆発的に拡散力を高めます。人の心を巧みにあやつります。ことばによる煽動、顔を合わせたこともない人をあたかも家族のように仲間意識をもちます。その反対もあります。戦争がもつ矛盾です。

           
歴史上の和平

○ このような人間に希望や解決の糸口は見つかるのでしょうか? 歴史上の和平を見てみましょう。彼らはどのようにして共存できるしくみをつくったのでしょう。       

○ 世界最古の和平協定は、カデシュの戦い(B.C.1268年)です。カデシュは今のシリアとレバノンの国境付近に位置します。エジプトとヒッタイトの戦争でした。          最近では2003年に締結されたリベリア内戦の例があります20万人が死亡したこの戦争で住民の「白いTシャツ反戦運動」が停戦を成立させました。対立より協力が、自給率を高め、生存率を上げるのです。今も子どもの教育保障と旧兵士の職業訓練が進められます。

○ 彼らは血と汗を積み重ね、戦争状態をもう一度元に戻すシステムを考えます。歴史は教えます。「共感力の暴走」から正しい歩みに戻さねばなりません。相互不可侵をつくる努力が求められます。共存する。ゆるす。元に戻す。これ以上家族を失わない。相手の今を認め、自らの負の側面を克服する。新しい共感力を生む努力がいります。                           そのために、人間の時代を希望の時代にするカギを一緒に探すことです。「祈る」「美を追求」「冒険」。

           
6年生のみことば作文より

○ 海星小学校でやっている「聴き合い」がとても大事だと思いました。理由は、相手がなぜ攻撃してきたかが分かるからです。ですが、どんな理由があっても戦争は絶対にしてはいけないことがわかりました。なので、けんかもしてはいけないと思いました。

◦ 私は「聴き合い」がゆるすことにつながると思いました。「聴き合い活動」の時、「おたずね」や「確かめ」をしっかりとしようと思いました。相手の考えていることが詳しくわかるまで「問い返し」をしようと思いました。 

◦ フランシスコの平和の祈りにあるように「争いのあるところにゆるしを」、これが小さな平和をつくることにつながるのではないかと思います。「ゆるす」には方法があります。「聴き合い」です。自分の考えを言いつつも相手に考えを聴く「おたずね」「確かめ」。考えが違っても聴くことで理解し納得する。

◦ 相手に意見を伝えるところから本当の考えが相手に伝わっていくと思います。 黙っていないで伝えます

◦ 私は、毎日、神様に感謝しながら、戦争の終わることを祈っています。

                                                                           (了)

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